

暴漢に襲われた事件は、壁と言うより、視界のすべてが目隠しされたような気がした。
時間さえも止まってしまった気がした。
第一報を電話して来たレコード会社の人間やマネージャーと、
川栄李奈と入山杏奈の怪我の状態や、精神的なショックを受けているメンバーの状況を
怒号が飛び交う中やりとりをした。
総監督の高橋みなみは号泣していて話にならず、ただただ、携帯電話を押し当て、
じっと聞いているしかなかった。
”会いに行けるアイドル”として、ファンとメンバーが楽しみにしていたイベントが
なぜ、こんなことになるのか?誰もが、理不尽な凶行に怒りで震えていた。
翌日、川栄と入山が岩手の病院を退院し、東京へ帰ってきた。
さらに精密検査をするためにそのまま病院へ直行した。とにかく、2人が心配だった。
先に帰って来ていたメンバーには臨床心理士やカウンセラーが付きっきりになった。
AKB48の前に未来がまったく見えない壁が立ち塞がった。
その壁を乗り越えるでもなく、迂回するでもなく、突き破って進んだのは、
川栄、入山を始めとするメンバー自身だった。
「夢をあきらめるわけにはいかない」
その信念から傷ついた彼女たちは立ち上がり、前に進んだ。
壁の向こうあら聴こえるファンの歓声が支えになったことは言うまでもない。
6月7日、8日どしゃぶり雨の味の素スタジアムで、合わせて14万人のファンが
事件後初のAKB48を迎えてくれた。
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